入通院慰謝料の計算方法【自賠責と裁判所基準の違い】
交通事故でお怪我をされたら、医療機関に通ったり、場合によっては入院をしたりして、治療を続けることになります。
「入通院慰謝料」は、交通事故による怪我の治療のために入院をしたり通院をしたりしたことに対する慰謝料です。
この記事では、入通院慰謝料の計算方法について、ご説明していきます。
入通院慰謝料とは
「入通院慰謝料」とは、交通事故による怪我の治療のために、入院や通院をしたことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料のことをいいます。
入通院慰謝料の金額は、通常、入院や通院をした期間に応じて高くなります。
その計算方法には、基準があります。
一般的に、入通院慰謝料の基準には、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準の3つがあります。
自賠責基準とは
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法5条によってすべての自動車に加入が義務付けられている強制保険です。
自賠責保険の保険金は、法律(自賠法16条の3)によって、国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従うものと定めされており、これを受けて、支払い基準が定められています。
また、保険金支払いの上限額も、自賠法施行令2条に定められています。
具体的には、「傷害による損害」に対する保険金の上限額は、120万円、「後遺障害による損害」の上限額は、後遺障害の程度(等級)に応じて、75万円から4000万円、「死亡による損害」は、3000万円とされています。
そして、入通院慰謝料の自賠責保険に支払い基準は、次のとおりです。
- ・1日につき、4,200円 ※令和2年4月1日以降の事故は4300円
- ・慰謝料の対象となる日数は、実治療日数の2倍と総治療日数(初診から治療を終了した日までの総日数)を比較して、小さい方を採用する
任意保険基準とは
任意保険会社は、それぞれ独自の基準を持っていて、これに基づいて算定した金額を示談金として提示してくるのが通常です。
この際の基準を、任意保険基準と呼ぶことがあります。
一律の基準が公開されているわけではありませんが、下でご説明します裁判所基準と比較するとかなり低額になっていることがほとんどです。
裁判所基準とは
裁判所基準(弁護士基準)とは
「裁判所基準」とは、裁判所の考え方や過去の判例などを研究した結果として公表された交通事故の損害賠償の金額の基準です。
日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(「赤い本(赤本)」と呼ばれます。)という書籍にまとめられています。
弁護士が相手方に対して損害賠償請求を行う場合には、通常、裁判を見据えた金額で請求しますので、この裁判所基準によって算定します。
そのために、「弁護士基準」と呼ばれることもあります。
入通院慰謝料の算定基準
入通院慰謝料についても、「赤い本」の中に基準が記載されています。
具体的には、「別表Ⅰ」と「別表Ⅱ」という表があり、その表に、入院期間と通院期間を当てはめることで、金額が出てきます。
基本は、別表Ⅰを用いますが、「むち打ち症で他覚所見がない場合等(軽い打撲・軽い挫傷を含む)」の場合には、別表Ⅱの方を使います。
また、通院期間についても、ルールがあります。
別表Ⅰの場合には、「通院が長期にわたる場合には、症状・治療内容・通院頻度を踏まえ、実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」とされています。
また、別表Ⅱの場合には、「通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度を踏まえ、実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」とされています。
実際にどの程度の場合に、通院期間がこのように考えられてしまうのかなどについては、個別具体的な事情をお伺いして、弁護士からアドバイスをさせていただきます。
このように、基準があるとはいっても、最終的な判断は個々の事情によりますので、適切な判断は容易ではありません。
専門家である弁護士におまかせいただければと思います。
赤い本の表は、それぞれ、以下のとおりです。
<別表Ⅰ>
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 | 321 | 328 | 334 | 340 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 | 325 | 332 | 336 | 342 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 | 329 | 334 | 338 | 344 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 | 331 | 336 | 340 | 346 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 | 333 | 338 | 342 | 348 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 | 335 | 340 | 344 | 350 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 | 337 | 342 | 346 | |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 | 339 | 344 | ||
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 | 341 | |||
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 | ||||
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | |||||
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | ||||||
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | |||||||
13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | ||||||||
14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | |||||||||
15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
<別表Ⅱ>
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 | 211 | 218 | 223 | 228 | |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 | 212 | 219 | 224 | 229 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 | 213 | 220 | 225 | 230 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 | 214 | 221 | 226 | 231 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 209 | 215 | 222 | 227 | 232 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 | 216 | 223 | 228 | 233 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 | 217 | 224 | 229 | |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 | 218 | 225 | ||
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 | 219 | |||
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 | ||||
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | |||||
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | ||||||
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | |||||||
13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | ||||||||
14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | |||||||||
15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 |
自賠責基準、任意保険基準と裁判基準の違いー具体例
例えば、交通事故で骨折の怪我を負って、6カ月間(実治療日数50日)の通院をした場合の入通院慰謝料はどのようになるのでしょうか。
自賠責基準によると…
実治療日数50日の2倍は100日になり、通院期間の6カ月(=180日)よりも少ないので、ルールに従うと、100日が治療日数として採用されることになります。
したがって、自賠責基準によると、入通院慰謝料は、100日×4,300円=43万円となります。
裁判所基準によると…
骨折なので、別表Ⅰを用いて算定します。
別表Ⅰの通院期間6カ月の部分に当てはめて見てみると、入通院慰謝料は、116万円となります。
なお先ほどご紹介したように、場合によっては、50日の3.5倍の方が採用される可能性もありますが、この点は、弁護士に具体的な事情をご相談いただければと思います。
当事務所にご依頼いただいた場合には、できるだけご依頼者に有利になるように交渉を進め、あるいは、訴訟で主張立証を行います。